「Bath Time」
「え…お風呂、一緒に入るの…?」
「しょうがねぇだろ、水道代もったいねーし」
ニクスが一人で暮らすアパートの一室に、私は泊まりに来ていた。
フリーターの一人暮しらしい…俗に言う「安アパート」ってやつかなぁ…
一応風呂もついてる、と聞いて、そんなアパートについてるお風呂に期待してもいなかったけど…
お情け程度の広さの脱衣所に入った時には、さすがにちょっと引いてしまった。
でも入らないわけにいかないし、服を脱ごう…
と思った所に、さも当たり前みたいにニクスが入ってきて、さっきの会話。
もったいねーし、と言い終るが早いか、彼はさっさと自分の服を脱ぎ始めた。
「えッえ、ホントに一緒に入るのぉッ?!」
「フリーターの一人暮しなんだぜ…察してくれよ」
…そんな堂々と開き直って、自分がフリーターな事自慢しなくても…
なんて思っている間に、ニクスの準備は完了してしまっていた。
「エリカ、ホラさっさと脱げよ」
そう言っていきなり、私の服に手を掛けて脱がし始める。
「やッ…ちょっとやめてよッ!服くらい自分で脱ぐから!」
「早くしろよ、待ってるから」
…素っ裸で仁王立ちしてる男の目の前で、服脱げって言うの…?
「…そんな見られてたら脱げないよ…先入ってて」
「別にいいじゃん」
ニクスの横浜弁…そういえばあまり聞かないなぁ…なんて、思ってる場合じゃないんだけど。
「別に良くないの!さっさと入ってよ!」
ニクスは渋々、といった顔でお風呂場へ入っていった。
彼が中でお湯をかけたり身体を洗い始めた音を確認して、私は服を脱いで入っていった。
お風呂場の中は、脱衣所の狭さに比べると異常なまでに広かった。
…どうなってんだろ、このアパートの部屋の構図…
「遅ぇ」
「うるさいッ」
不満たらたらなニクスの手に持っているスポンジを奪い取って、私は強引に彼の背中を流し始めた。
「お、サンキュ…なんだよ、妙に優しいな」
「…だって」
だって…男の人とお風呂一緒に入るなんて…初めてなんだもん…
なんかして無いと…何だか…凄く、落ち着かない。
ニクスが湯船に入り、今度は私が自分の身体を洗い始める。
「へぇ、エリカって肩から洗い始めるんだ」
「!!」
…視線は感じると思ってたけど…ニクスは、湯船の縁に両腕を組んで置き、そこに顎を乗っけてこちらを見ていた。
う…何だかちょっと笑ってるみたい…ものすごっく、落ち着かない。
こそこそと彼に背中を向けて続きを洗う。
うぅ、早く洗ってさっさと出ちゃおう。こんな落ち着かないバスタイム、初めてだよ…
不意に後からざば、と湯船から上がる水音がした。
「なッ、ななな、なにッ?!」
つい身構えてしまう。
「背中」
「へ?」
「背中流してやるよ。さっきしてもらったしな」
「せな…か、ね、う、うんヨロシク」
私は、動揺のあまりわけのわからない返事をしてしまう。
ニクスに身体を洗うスポンジを渡して背中を向ける。
彼は丁度良い強さで、私の背中を流し始めた。
……やっぱり、落ち着かないよぉ…
「何ビビってんだよ」
「う…だって…」
「…あー…わかった、こーゆーコトされると思ったんだろ」
言ったが早いか、ニクスはいきなり後から私の胸をぎゅっと掴んだ。
「やッ…!」
泡がついていていつもと違う感触に、私の身体は必要以上の反応を示してしまう。
「こーゆー状況、思えばオイシイよな…いつもと違う感じするだろ?」
調子に乗ったニクスはまるで泡をなすりつける様に私の胸を揉みしだき始めた。
本当におかしい…なんで私、こんなに感じてるの…?でもッ…
「や…嫌だ、やめてよぉ…」
「ココはそうは思って無いみたいだけど」
ニクスのもう片方の手が、私の中心へするっと入っていく。
慌てて足を閉じても泡で滑って結局意味が無く…
彼は器用な指遣いで私の部分を弄り始めて…や、やだ…声、出ちゃう…
「んぅッ…」
「…いつもより凄いな」
「ッ!…そんな事…ッ」
駄目…このままじゃ…このままお風呂場で…そんなの…そんなの、恥ずかしいよ…ッ
私は夢中で手を伸ばし、近くにあった洗面器を掴んで自分の肩越しにひっくり返してやった。
───ばしゃあぁッ
「うぁッ…何すんだよッ!」
「にッ…ニクスが変な事するからでしょうッ?!」
「…お前だって、しっかり感じてたじゃねーか…」
「うッ…そ、それにしたってお風呂場でやらしー事しなくたって良いじゃない!」
言って、はっと気が付いた…ニクスがにやっと笑った。
「じゃ、風呂場じゃなきゃ良いんだ?」
「……ぅう…」
…上手く、嵌められちゃった…
なんでこの人、こーゆぅ約束取り付けさせる事に関してだけは、頭が回るんだろう…
「じゃ、出たらヤろうなー♪」
しかもなんでそんな楽しそうなの!?…もう、信じられない…
…でも。
「イイよ…」
好きだから。やっぱり大好きだから。
一緒に居たい…触れて欲しい。大好きな人だから…
END